
有効求人倍率の上昇、失業率の改善が続く中で企業の人材枯渇感はかつてない水準にまで達しているという。
学生が就職先を決めるポイントに「ブラックではない」を優先事項に挙げている事が影響してか、どの企業も自社の「ホワイト」アピールを強化し、人材の獲得に躍起になっている。
ここまでどの企業も労働環境改善に取り組んでしまうと、いずれブラック企業は消滅するだろうと考えていたのだが、実際にブラック企業で長く人事を続けていた「中の人」Aさんに話を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
--ブラック企業で人事として働いていらしたのですね?
はいそうです。
10年ほど飛び込みリフォームの会社で人事として採用を担当していました。
--リフォーム業界はブラックが多そうですね
そうですね。
基本はインターフォンを押してからの飛び込み営業ですから、否が応でもブラック気質になりますね。
リフォーム業界に限らず、どの業界でもまあ、飛び込みはブラックじゃないですかね。
置き薬とか配達牛乳の営業とか。
--働いていて、どうでしたか?
まあ、ブラックですよね。
社員はバコバコ辞めていくし、給料は安いし。
最悪の環境だと思いますよ。
--その会社は現在も存続していますか?
ええ。存続していますよ。
ブラック企業だと、入社する人もわかって入っていますから。
--本題なんですけど。どうしてブラック企業って無くならないのですか?
これだけ就職状況が良くなれば、消滅してしまいそうなものなのですが。
多少は採用が減るでしょうけど、無くならないですね。
ブラック企業は未来永劫に。
--どういうことですか?
簡単にいうと人間はいくつかのレベルに分けられると思います。
レベルというとおこがましいですが、個人の能力というか資質というか。
上位20%の「できる人」
中位40%の「普通の人」
下位30%の「できない人」
最下層10%の「どうしようもない人」
この上位から下位の人は能力の適性こそあるとは思いますが、どこでも働く事ができる人達です。上司の指示を理解して、正しく仕事ができる。
ただ、最下層の10%の人は、どう頑張っても普通の企業では働けないのです。
そもそも頑張れない。
コミュニケーションが取れなかったり、気分屋で遅刻癖があったり、家賃をパチンコで使い込んだりと「普通」のことができない人達です。
どうして、そんな事になったのかはわかりません。
聞いてみると幼い頃に虐待にあっていたり、いじめにあっていたり、発達に難があったりと暗い過去のある人が多い様な印象があります。
そういう「普通」ができない人達は「普通の企業」では働けないのです。
でも、働かないと生きていけない。
だったら採用率100%の「ブラック企業」で働くしかない。
失業率が改善されようとも、最下層の人達は普通の企業には能力不足で採用されることはないのです。
--確かに人材が足りなかったとしても能力の足りていない人は企業は取りたがりませんね。
どんなに人口が増えたり減ったりしたとしても、最下層の10%の人達は絶対に存在しているわけです。
で、企業側もどんなに人手が足りなくても、決められた時間に来ることができない人材を採るわけにはいかないですよね。仕事になりませんから。
採りたくても採れない。
ある意味ではブラック企業は「必要悪」ではないかと思うのです。
良く言えば、ブラック企業はそういう人達の受け皿になっているわけなんです。
--なるほど。ブラック企業にも相応の需要はある。だから無くならない。と
そうです。
ブラック企業と言われれば聞こえは悪いですが、働いている人達も逃げようと思えば簡単に逃げられます。
こちら側もヤクザではないので追い込みをかけたりしませんし。
でも、相応に続ける人も多いんですね。
もちろん途中で辞める人も多いですけど。
社内は体育会系で暴力もありました。
ただ、そういう環境でしか統制が取れない人材がほとんどという側面もあるんですね。
ブラック企業をどうこういう人達はこの「現状」をわかっていないんです。
言ってわかる人達なら、誰も暴力をふるいません。
わからない人達が集まっているから、ブラック気質にせざるを得ない。
結果として、よりブラックになる。
--卵が先が、鶏が先かという議論のようですが
そのとおりですね。
①ブラック企業だから質の悪い人材が集まる。
②人材の質が悪い集まりだからブラック企業になる。
どちらが先かは難しい問題ですね。
ただ、私は②の側面がある限りはブラック企業は未来永劫に無くなる事はないと思います。
2018年2月の求人倍率は1.5倍。
バブル期を超えるほどの高数値となっている。
ブラック企業もこれで相当な水準にまで淘汰されていくだろうと思っていたが、Aさんの話を聞いてみるとこれからも消滅することはなさそうである。